2011年12月16日金曜日

安藤忠雄氏が新美術館の設計者になった背景

平野政吉美術館(秋田県立美術館)


建設中の新県立美術館

 2008年(平成20年)9月12日、当時の寺田典城秋田県知事は、秋田市中通に移転新築予定の新県立美術館を建築家、安藤忠雄氏が設計すると発表した。
 安藤氏は、2008年(平成20年)5月に、北秋田市で開催された全国植樹祭の式典会場の設計を担当するなどし、秋田県と繋がりを持ったが、それ以前は、2006年(平成18年)5月に秋田市で行われた「経済・文化フォーラム」にパネリストとして参加したことがある位しか、秋田県とは関わりのなかった人である。この安藤忠雄氏が、なぜ、再開発地域に建設予定の美術館の設計者に選ばれたのだろうか。この設計者選定にあたって、設計競技などによる選考は一切行われていない。

 寺田前秋田県知事と安藤忠雄氏は、全国植樹祭の設計者選定のコンペが公募される2006年(平成18年)9月以前から面識があったとのことだ。(「安藤氏は、6月に北秋田市で開かれた全国植樹祭の会場設計を担当した。寺田知事と安藤氏は、その設計者選定のコンペが公募される一昨年9月以前から面識があり」《2008年11月9日、河北新報》)
 また、2006年(平成18年)5月中旬、全国植樹祭のモニュメント制作依頼の件などで、秋田県の担当者は、安藤忠雄氏と会っている。そして、時をほぼ同じくし、2006年(平成18年)5月29日、県庁若手職員有志による案と言うことで、中央街区再開発計画の二つのプランが発表された。なぜか、2案とも藤田嗣治作品の利用、「秋田の行事」の展示が含まれていた。一般的な秋田県人なら考えない平野政吉美術館(秋田県立美術館)からの藤田嗣治作品の移設を含んだものであり、県民にとって違和感のあるプランであり、誰かしらのアイディア、それも有力者の意向が反映されたのではないかと思わざるを得ない。この「若手職員の案」に過ぎなかったプランは、その後、秋田市、再開発(準備)組合に示され、瞬く間に具体化されていった。
 安藤忠雄氏が新美術館の設計者に選ばれたことを報道した当時の新聞は、「安藤氏は県立美術館に展示している世界的に有名な画家、藤田嗣治の作品に以前から強い関心があり『世界的に有名な藤田作品をもっと県民に知っていただくよう努力する必要がある』と知事に助言した」(2008年9月13日、毎日新聞)と伝えている。従前から、平野政吉美術館所蔵の「秋田の行事」を始めとした藤田嗣治作品に強い「誇り」を持つ秋田県民にとって、この安藤氏の発言は、極めて違和感のあるものであった。
 この安藤忠雄氏の個人的な藤田嗣治作品に対する認識、県の藤田嗣治作品の再開発地区への移設展示案の発表、新県立美術館の設計者に安藤忠雄氏が選定、これらが結びついているように思えてならない。
 
 一方、安藤忠雄氏に設計を依頼したという寺田前知事は、有名人好きであったことが知られている。2002年(平成14年)には、県北部の活性化イベントを唐突にぶち上げ、有名デザイナー・山本寛斎氏にプロデュースを依頼すると発表したこともあった。(議会の反対で頓挫)
 今回の新県立美術館の設計者選定の際も「安藤忠雄氏なら進めたい」とも発言している。
また、表向きには、設計者が決まっていない段階の2008年(平成20年)6月に、県の担当者が安藤忠雄氏を新美術館の建設予定地に案内するなど、始めから安藤忠雄氏ありきであったことが窺われる。
 また、2006年(平成18年)当時、中央街区の再開発計画には、現秋田県知事である佐竹敬久氏が2001年(平成13年)秋田市長に当選してから持ち上がった、千秋公園内の某施設の移転案があった。この施設は、旧秋田藩主縁の品々を所蔵している施設である。この案に、地権者で事業認可権限のある県の寺田前知事がこの施設は、「千秋公園の中にあるべきだ」と異を唱え、その後、県立美術館(平野政吉美術館)の移転案が発表された。
 現在建設されている再開発事業計画は、この話に、千秋公園内の某施設の移築に固執し、県立美術館跡地への移転を望む、当時の佐竹秋田市長(現知事)が乗っただけの話なのである。両者の思惑、タイミングが合っただけで具体化されていった計画なのだ。
 秋田市の中央街区をどういう街にするかとか、中心市街地の活性化に何が有効かとか、あるいは現県立美術館(平野政吉美術館)の建設の経緯や文化的価値、観光資源としての価値を熟慮、検討することもなく、有名人好きで有名な寺田前県知事が、単なる思いつきで、ネームバリューがあると言う理由で、安藤忠雄氏設計ありきの新美術館建設を目論み、土木行政、ハコモノ行政を押し進めようとし、これに県立美術館跡地への某施設の移転新築を目論む(注)、佐竹北家第21代当主である、佐竹敬久前秋田市長(現知事)の思惑が一致し、強硬に進められた計画である。
 また、佐竹氏は、財団法人平野政吉美術館が、移転に原則反対としていた時、「県は県立美術館を整備(移転)すると意思表示した以上、責任を果たしてもらいたい」「移転は4者(県、市、再開発準備組合、秋田商工会議所)協議で既に決まったこと」と発言し、強硬に県立美術館(平野政吉美術館)の移転を主張している。
 このような県民利益からかけ離れた行政が行われるようでは、秋田県民、秋田市民にとって不幸なことと言わざるを得ない。

 現時点においては、建設中であると言う安藤忠雄氏設計の新美術館は、展示内容を大幅に変えるのが最善である。
 近年、美術館の成功例と言われるものは、「スイミング・プール」など子どもが楽しめる展示や現代アートを体感できる金沢21世紀美術館、現代アートによる街づくりをしている青森県十和田市の十和田市現代美術館のほか、安藤忠雄氏設計の香川県直島の地中美術館もジェームズ・タレルやブルース・ナウマンなどの現代アート作品を多数展示しているなど、入館者が観るだけでなく体感することができる、現代アートの展示によるのが多数である。
 秋田市中心市街地の新しい商業施設の隣に藤田嗣治作品を移設しなければならない必然性は全くないし、中心市街地の活性化に寄与すると言う点においては、藤田嗣治作品より、現代アートのほうが有効であると言えるだろう。
 また、歴史を備えた平野政吉美術館(現県立美術館)をこれからも存続させれば、相乗効果も見込めるだろう。
 安藤忠雄氏設計の屋上に水を溜め、眺めることを目的としている新美術館は、中心市街地の活性化のためにも展示内容を大幅に変えることが求められる。県民の作品発表と展示、現代アートの展示を中心としたものに大幅に見直することが必要だろう。
 また、美術館としての安全面を重視し、屋上に水を溜める構造は中止すべきと思う。


(注)2007年(平成19年)9月の秋田市議会で当時の佐竹秋田市長は千秋公園内の某施設の改築について、「県立美術館跡地における改築も視野に、別途検討を要する」と発言している。



web拍手 by FC2